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チェーホフしろん

チェーホフ試論

神西 清

――チェーホフ序説の一部として――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,618 字 · 41 页

青空文庫

5

もし強いて指してみろと言われたら、おそらく進化の無限の彼方をゆび指したに違いない。

5

僕の書く人物が陰気だと言われるが、それは僕のせいではない。メランコリックな男に限って陽気に書くし、陽気な連中はかえって悲哀を追い求める。ところで僕は陽気な男だ。少くもこれまで三十年の生涯を面白おかしく送って来た男だ――こんな言葉をチェーホフは手紙に書いている。

これはいささか瘠我慢が勝っているかもしれない。少くとも例の陽気な冗談口の一種には相違ない。だがそうした冗談口がしばしば反語的に真相を明している実例をわれわれは十分に見て来たはずだ。また、チェーホフには非常な快活さと非常な暗鬱さとが刻々に交替する癖があった、という友人たちの証言にも接している。この「陽気」さを見すごしては、おそらくどんなチェーホフ論も片輪になるほかはあるまい。

チェーホフの笑い、あるいはユーモア。――恐らくこれほどじっくりした題目は他にあまり類例がないだろう。ところが、およそチェーホフの笑いほど世の評伝家から不当な取扱いを受けているものもあまり類例がないと言える。私見によるとチェーホフの笑いは、彼の非情に少くも劣らぬだけの重要性をもつ。