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バルザックにたいするひょうか

バルザックに対する評価

宮本 百合子

「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页

青空文庫

マルヌッフ夫婦の悪行で曇った食事皿の中の隠元豆に引き合わしてしまうまで、バルザックは一旦掴んだ我々の手頸を離さぬ。更に、ポーランドの独立運動に対する妥協のない作者の反感。常にイギリスに反撥して示される民族主義的な誇、「私の政敵は即ちこの政敵です」「ああ王族は血統純美」というような蕪雑な王党的自己陶酔。一層我々に納得されにくい独裁専制政治と宗教についての暴圧的政治論等々、読者は決してすらりとこの一篇の小説を読み終せることは許されない。種々の抵抗にぶつかり、小道へまで引きまわされ、脂のきつい文章の放散する匂いに揉まれ、而もそれらのごたごたした裡から、髣髴と我々の印象に刻された従妹ベットの復讐の恐ろしい情熱、マルヌッフ夫妻、ユロ男爵の底を知らぬ深刻な情慾への没落、カトリック的献身の見本のようなユロ男爵夫人、ジョセファを繞るドゥミモンドの女たちの強い身ぶり暮しかた等は、極めて色彩が濃く、忘れようとしても忘れることは不可能である。すべての人物が着実に現実的に描かれているかといえば、そうではない。金モール内職のベットがマルヌッフのサロンでは、俄然ダイアモンドのような輝きを発揮しはじめたり、奇怪な老婆がいきなり登場したり、ユロ将軍の最後の条などは、明らかに前章に比してなげやりに片づけられている。