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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
つき進んで云えば、従妹ベットの心持が、あのような規模と貫徹性とをもって発動し作用し得るかどうかについても一応うたがわれないこともないのである。
バルザックと同時代の作家であるメリメの作風と比べて、これは又何たる相異であろう。フランス散文の規範のようなメリメは異国趣味でロマンティックな題材と情熱とを、厳しく選択して理性的に配置した文章の鮮明な簡勁な輪廓の中にうちこんでいる。メリメの作品の力と欠点とは整然とした描写の統制の中にある。
バルザックの文章は、書かれている事件が複雑な歴史に踏みへらされたパリの石敷道にブルジョアの馬車が立ててゆく埃を浴びているばかりでなく、文章そのものが、まるで、一見無駄なものや、逸脱したり、曖昧であったりする様々な錯綜したものを引くるんで我々の日常に関係して来る社会生活そのもののような性質を帯びている。バルザックの小説において、読者はユーゴオの作品に対した場合のように、主要人物の動きにひきまわされるばかりではすまない。もう一つ、文章そのものに感情を刺戟されたり、思考を誘い出されて観察を目醒まされたり、と揉まれるのである。そして、我々は時に退屈したり、腹を立てて、バルザックを軽蔑したり、つまり自身の内から情感を生き生きと掻き立てられて、結局全篇を貫く熱気に支配されるのである。