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ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页

青空文庫

という街の不良少年があった。白塗りの救急車で、押しかけて搬びこんだのが外ならぬヒルミ夫人の外科病院だった。

モニカの千太郎は顔面に三ヶ所と肋を五寸ほど斬り下げられ、生命危篤であった。普通の病院だったらとても助からないところだが、ヒルミ夫人は感ずるところあって、特別研究室に入れ、日夜自分がついて治療にあたった。その甲斐あって、病人はたいへん元気づき、面会に来た警察官を愕かせなどしたものだが、そのうち繃帯がとれそうになったとき、千太郎は病院から脱走してしまった。

ヒルミ夫人の届出でに、警察では愕いて駈けつけたが、厳重だといっても病院のことだから抜けだす道はいくらもある。まあ仕方がないということになった。

そのうちに、また元の古巣へたちまわるにちがいないから、そのときに逮捕できるだろうと、警察では案外落ちついていた。

ところがその後千太郎は、すこしも元の古巣へ姿をあらわさなかった。警察でも不審をもち、東京の地から草鞋をはいて地方へ出たのかと思って、それぞれに問いあわせてみたが、千太郎はどこにも草鞋をぬいでいなかった。そんなわけで、モニカの千太郎は愛用のハーモニカ一挺とともに失踪人の仲間に入ってしまった。