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ボニンとうものがたり

ボニン島物語

久生 十蘭

「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页

青空文庫

もともと南部の領民には文盲が多く、南部の盲暦といって、四季のめぐりを見る、大切な暦までが絵解きになっている。満足に子供の名ひとつつけられず、正月生れた女の子はショガ、二月に生れたのはニガ、三月に生れたのはサガですましておくという始末である。

名子というのは、地頭や地主から家と畑と農具を借り、その家の持物になって、死ぬまで奴隷のように働かされる貧農のことで、生涯、米を食わず、名子のそっちら稗といって、飯時になると、井戸や川の近くへ行って、稗だけのボロボロ飯を冷水で飲みくだすという話を、駒三郎もいつか聞いたことがあった。

駒三郎は、それで諒承したが、深志はおさまらず、

「おい、庄吉、故郷に近くなったせいか、急に大風になったな。えいこら、もちっと、神妙にせい。清兵衛が気を揉んでいるのが、お前にはわからないのか」と頭ごなしに叱りつけた。

庄吉は膝に手を置いて首を垂れていたが、顔をあげて薄濁った白眼をひき剥くと、

「さア殺せ」といいながら、あおのけにひっくりかえって、足をジタバタさせた。

清兵衛は二人の前へ這いだしてきて、枯草の上に手を突き、

「これには、仔細のあることで」