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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
水沢のそばにいる庄吉のほうへ、チラと視線を走らせてから、
「ごらんなさいまし、庄吉は首の座になおったつもりで、ああして、おとなしく控えております」
深志は「おれは、最初から斬る気はなかった。おぬしはどうだ」と駒三郎にたずねた。駒三郎は考えてから、「おれのほうにも、斬る気はなかったようだ」とこたえた。
深志は、清兵衛のほうへ向いて、
「清兵衛さん、お聞きのような次第だ。これまでの常式では、野辺地の郡代官に引継げば、それでわれわれの役目がすむのだが、こんなところまでついてきたのは、しょうしょう、おねがいの筋があるからだ。なんと、清兵衛さん、聞いてはくれまいか」
駒三郎が、かわって、
「わしからもおねがいする。二人をボニン島とやらに、連れて行ってもらいたい。田中から聞いて、なんと満ち足りた世界も、あればあるものだと思ったが、お手前の話で、どうにも執着が断ちきれなくなった。大湊に着く前に、埓をあけたいといったのは、じつは、このことだったのだ。どうでも、ならぬといわれれば、ここからすぐ津軽を廻って、出羽あたりへ落ちることになるのだが」
深志は揉み手をしながら、