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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

しかし、ヤコヴはゴーリキイからお前は石だねと云われた時、ゴーリキイの心臓に注ぎ込まれて忘られぬ言葉を云った。

「おかしな男だな! 石と来たか?――だが、お前は石をも可哀想に思う人になってくれ。石もそれ相応の役に立つ。街なんか石で敷きつめる。どんなもんでも可哀想に思わなけりゃならない。砂だって――何だろう。その上に小さい草が生えるだろう……」

このヤコヴにゴーリキイはプーシュキンの詩を読んでやった。パリの物語を読んでやった。ヤコヴが、偶然ペルミ号にのり込んで来たシベリアの去勢宗教のところで働くことにきめ下船する時、ゴーリキイを誘った。

「俺と一緒に行かないか? 一言話せばあの鳩ぽっぼはお前もつれて行くぞ」

生気のない眼をした、ぐにゃぐにゃした感じの男は、ゴーリキイの心に嫌悪を生んだ。ヤコヴ・シュモフは、ゴーリキイの心に「穏やかならぬ複雑な感情を残して、熊のように体を揺りながら立去ってしまった。――」

秋、ヴォルガの河の水瀬が落ちる。船が通わなくなる。冬の屋根を求めて、ゴーリキイがもぐり込んだのは聖画工場の見習であった。

毎朝、番頭と一緒に寒い暁方の街を歩いて商店街からニージニの市場の陳列場の二階にある店へ通い、陳列場の土間を重く歩いている人々に向って、細い声を出して、利益をのべたてて聖画を買わせる。