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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

「でも――みんなは知識を望んでいるんですか?」

「どうして。勿論さ! 第一、君は望んでいるだろう?」

そうだ。ゴーリキイは――望んでいた。

だが、この陰翳に富んだ、逆説的な分子のこもった会話は、当時のゴーリキイが民衆、学生、デレンコフや彼自身の関係に対して抱いていた複雑な感情の深淵を何と微妙な閃光で我々に啓いて見せることであろう。

これは、ゴーリキイが、セミョーノフのパン焼工場で、一日十四時間ずつ労働し、肉体的に苦しく、道徳的には一層苦しい生活の時代のことである。冬になって、ヴォルガの稼ぎのなくなったゴーリキイが「外側から犇々と鉄格子で覆われ」「日の光は粉の埃で一面の窓硝子をとおしては届かない」地下室に降りて行った時、彼にとって「それを見、それを聞くことが既に必要となった人々との間には『忘却の壁』が生い立った。」「私の大学」の中で、ゴーリキイは自制した悲しみをもってこの頃を追懐している。「彼等の中の誰も私のところに、仕事場に来てくれるものはなく、私は一昼夜十四時間も仕事をしているので、普通の日にはデレンコフの所へ行くことが出来なかった。休みの日には或は眠り、或は仕事仲間と一緒にいた。