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マリア・バシュキルツェフのにっき

マリア・バシュキルツェフの日記

宮本 百合子

「新女苑」1937(昭和12)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,569 字 · 24 页

青空文庫

彼女は十三になったとき、もう「私は十三である。こんなに時間を無駄にしていて、これから先どうなることだろう?」と溜息をついている。自分の命に限りのあること、その限りある命の中で、自分がそのためにつくられていると感じている勝利と感動とのために、何事をか仕遂げなければならない。マリアを寸刻も落付かせないその内部の衝動によって、彼女は十三から日記をつけ始めたのである。

普通日記というと、ひとに見せないものとして考えられている。マリアはこの点で全然別な考えをもっていた。はっきり、人に読んで貰うことを期待した。彼女は十六歳の時にこう書いている。

「私は自分の将来がどうなるかは知らないが、この日記だけは世界にのこす積りである。私たちの読む書物は皆こしらえものである。筋に無理があり、性格にうそがある。けれどもこれは全生涯の写真である。ああ! こしらえものはおもしろいが、この写真は退屈だ、とあなたはいうでしょう。あなたがそんなことをいうならば、あなたはひどく物のわからない人だと思います。

私はこれまで誰も見たことのないようなものをあなたにお見せするのです。これまで出版されたすべての思い出、日記、すべての手紙は、皆世界を偽るための拵えものに過ぎません。