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ラジオざっかん

ラジオ雑感

寺田 寅彦

「日本放送協会『調査時報』」1933(昭和8)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,067 字 · 11 页

青空文庫

そのためになおさら自分のラジオに対する興味は減殺されたようであった。ところが、ある夏の日に友人と二人で郊外の某旗亭へ行ってそこで半日寝ころがって蜩の声を聞きながら俳諧三昧をやった。日が暮れて帰ろうとしていたら階下で音楽が始まった。ラジオの放送音楽である。聞いてみるとそれはハイドンのトリオであった。こんな閑寂な武蔵野の片隅で、こういうものを聞くということが何となく面白かった。蜩の声を聞きながら俳諧に遊んだあとでは、なおさらそうであった。とにかく、この夏の夜の武蔵野で聞いたトリオ以来、ラジオに対する恐怖に似た心持だけは消えてしまったようである。それで宅で受信機設置の議が起った時は別に反対しなかった。

某百貨店でトリルダインと称する機械を買って来て据付けた最初の日の夕食時に聞いたのは、伴奏入りの童話で「蟻と蟋蟀」の話であった。食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。

色々な種類の放送のうちで自分にいちばん苦手なのは演説講演の類である。