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ラジオざっかん

ラジオ雑感

寺田 寅彦

「日本放送協会『調査時報』」1933(昭和8)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,067 字 · 11 页

青空文庫

音楽の方はかなりまで好い加減に色々に変化させても、やはり同じものとして認め得られるが、人間の言語はそれがただほんのごくわずかでも変形すればもはや全然別のものに変って識別出来なくなってしまうのである。

それはとにかく、講演でも自分のよく知っていて始終互いに談話を交わしている人の講演ならば、あまり言語明晰でない人のでもよく分かるような気がする。そういう場合には話している人の「顔が見える」。そうしてそれが音の不完全を助けて理解を容易にするように思われる。「話し振り」をよく知っているという事は、単に音響だけの記憶を意味するのではなくて、話す人の顔面筋肉のあらゆる微細な運動の視像と一つ一つの言語と結び付いたものの綜合的記憶を意味するのであろう。少なくも盲目でない普通の人にとってはそうである。それでラジオで耳馴れた人の声を聞くと、その声が直ちにその人の顔の視像を呼出して来て合体する。そこで始めてその言葉の意味が明らかになるのであろうと思われる。日常接している人だと、いちばん最初に咽喉を掃除するための「エー」という発声を聞いただけで話し手の顔がありありと面前に出現するのは全く不思議である。