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レーリーきょう(ロード レーリー)

レーリー卿(Lord Rayleigh)

寺田 寅彦

「岩波講座 物理学及び科学」岩波書店、1930(昭和5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,439 字 · 55 页

青空文庫

それからナタル、ザンジバールをも見舞った。アフリカ沿岸航海中に深海の水色について色々の観察をした。その結果を一九一〇年に発表したが、彼の説は後にラマン等の研究によって訂正された。この旅行の帰途ナポリでカプリの琅洞をも見物したのであった。

南ア旅行から帰ったときは、病後のせいもあったが、あまり元気がなかった。もう仕事をする気力がなくなったのではないかという気がした。それでも帰るとから水の色に関する実験をぽつぽつ始めた。この頃から以後は全く実験助手なしであったから仕事は思わしく進まなかった。従って自然に数学的な方面の仕事に傾いて行った。彼は六十七歳になったが研究の興味も頭脳の鋭さも、少しも衰えなかった。ただ全く新しい馴れぬ方面の仕事に立入る気はなくなっていた。ある時彼の長子が「科学者も六十過ぎると、役に立たないばかりか、むしろ害毒を流す」と云ったハクスレーの言葉を引いて、どう思うかと聞いたら、「それは、年寄って若い人の仕事を批評したりするといけない事になるかもしれないが、自分の熟達した仕事を追究して行くなら別に悪い事はあるまい」と答えた。

一九一二年の暮にレーリーの末男が死んで、幸福な彼の晩年にも一抹の黒い影がさした。