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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
頭が異様に冷になっていた僕は、間の悪いような可笑しいような心持がした。
「そう」
優しい声を残して小幾は座を立った。僕は一種の興味を以て、この出来事の成行を見ている。暫くして小幾は可なり大きな丼を持って来て、児島の前に置いた。それは橘飩であった。
児島は宴会の終るまで、橘飩を食う。小幾はその前にきちんとすわって、橘飩の栗が一つ一つ児島の美しい唇の奥に隠れて行くのを眺めていた。
僕は小幾が為めに、児島のなるたけ多くの橘飩を、なるたけゆっくり食わんことを祈って、黙って先へ帰った。
後に聞けば、小幾は下谷第一の美人であったそうだ。そして児島は只この美人のげ来った橘飩を食ったばかりであった。小幾は今某政党の名高い政治家の令夫人である。
*
二十になった。
新しい学士仲間は追々口を捜して、多くは地方へ教師になりに行く。僕は卒業したときの席順が好いので、官費で洋行させられることになりそうな噂がある。しかしそれがなかなか極まらないので、お父様は心配してお出なさる。僕は平気で小菅の官舎の四畳半に寝転んで、本を見ている。
遊びに来るものもめったに無い。