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ひとつのあいじょう
一つの愛情
豊島 与志雄
「新小説」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,635 字 · 22 页
私がこの世で一番おえらいと思い申上げております吉岡先生に、恥も厚顔も愚かさもかまわず、一度お手紙を書きまして、この切ない思いつめた一念をお訴えしてみようと決心致しました。愚劣なことを、ばかな気狂めと、先生がお顔をおしかめになってお怒り遊ばしますことは、火を見るよりもはっきり致しておりますけれど、私はもう無茶苦茶な心でこのお手紙書きました。
哀れな淋しいみすぼらしい私の魂をお救い下さいませ。私に文学のことお教え下さいませ。小説を書くことお教え下さいませ。一生のお願いでございます。どうぞ哀れな小さい魂の切ない願いをおききとどけ下さいませ。伏して伏してお願い申上げます。
苦しくて息がつまって、もうこれ以上書けませぬ。私の愚かさをお許し下さいませ。
たった一行の御返事でも頂けますなら、もしそれが絶望で心をまっくらにするものでありましても、どのように有難くうれしく思われることでございましょう。
苦しく苦しく思いつめまして……。失礼何卒おゆるし下さいませ。
吉岡先生様御許に葉山紀美子
何か異様なのである。こういう手紙は容易には書けぬ。文字も麗わしく、美文調でもあるが、底に、妖しいとも言える一徹なものを湛えている。