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せんきゅうひゃくにじゅうさんねんなつ

一九二三年夏

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,898 字 · 16 页

青空文庫

自分は、少しは金も持ち、謙譲の美徳を自覚しつつ、感傷性を満足させる質素さに居ようとするのだ。如何にも小心な中流人の心理。

Aは生活にもまれ、自分をいざと云うときに守ることになれ、どん底に落ち切って居るから、或時、生活に対する強さ、I want because I want と云うところが、私共すべて林町の者にどぎつく、たまらなく見えるのだ。その社会の層の比較として見るとき面白し。

自分として困ることは、Aの貧しさは、彼の心の寡慾、学究によると思った。が、そうばかりではないと云うことだ。

Aの勉強

まるで誰かに恩でもきせるようにほこり、同情されることをよろこびとすると見た。その反動で、自分は勉強について一寸もぐちは云うまいと覚悟した。

たのまれてするのではなし、自分が愛し仕事をするのに、何をグドグド云う! と云う心持。

九月一日

今年は梅雨がひどく長かったので、八月に入ったらちっとも雨が降らなかった。

それが、三十一日の午後から少し模様があやしくなり、その夜は、珍らしいざんざ降りになった。

空には、東の方に凄い風雲が伝説のぬエのように浮び、俗に雨つぼ、と云われる西南の文珠山の上にはとけたような雨雲が見えた。