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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
音のしない様に注意して石段を降りると、すぐ目の前に畸形児の後姿が見えた。彼は先方に気づかれぬ様に、適度の間隔を保って尾行して行った。
紋三はそうして尾行しながら、何だか夢を見ている様な気持だった。暗い所で一寸法師が突然振返って、「バア」といい相な気がした。だが、何か妙な力が彼を引っぱって行った。どういうものか一寸法師の後姿から目をそらすことが出来なかった。
一寸法師はチョコチョコと小刻みに、存外早く歩いた。暗い細道を幾つか曲って、観音様の御堂を横切り、裏道伝いに吾妻橋の方へ出て行くのだ。なぜかさびしい所さびしい所とよって通るので、ほとんどすれ違う人もなく、ひっそりとした夜更けの往来を、たった一人で歩いている一寸法師の姿は、一層よう怪じみて見えた。
彼等はやがて吾妻橋にさしかかった。昼間の雑沓に引きかえて橋の上にはほとんど人影がなく、鉄の欄干が長々と見えていた。時々自動車が橋を揺すって通り過ぎた。
それまでは傍目もふらず急いでいた不具者が、橋の中程でふと立止った。そして、いきなりうしろを振返った。十間ばかりの所を尾行していた紋三は、この不意打に逢って、ハッとうろたえた。