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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
「音楽家が不協和音に敏感な様に探偵は事実の不調和に敏感であることが必要かも知れません。往々にして些細な不調和の発見が、推理の出発点になるものです。これは三千子の化粧台から持って来たのですが、御覧の通り外の瓶には皆指紋があるのに、このクリームだけはふき取った様に、何の跡も見えません。一番油じみ易いクリームの瓶にです。ところが、外側は注意深くふき取ったにも拘らず、千慮の一失でしょうか、中のクリームの表面に、実にハッキリと指紋が残っている。そして、その指紋は外の瓶のや、例の切断された腕の指紋とは、全く別のものなのです。
これは右の人さし指の指紋です。こちらの水白粉の同じ指のと比較しますと、不思議によく似てはいますけれど、ですから肉眼で見たのでは区別がつかぬ程ですが、レンズで見ればまるで別人の指紋であることが分ります。三千子という人は非常なおしゃれで、化粧台には、この外にまだ沢山の化粧品があったのですが、妙なのは、それには少しも指紋がついていない。一度でも使用した化粧品の瓶に指紋がついていないというのは、一寸考えられないことです。使用するたびに瓶をふく訳でもありますまい。