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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
ヘッドライトを消しているので、一寸見たのでは空家の一部分としか思えない。奇怪な男はそこまでたどりつくと、山野夫人をさし招いて、押し込む様に車の上に乗せ、何か運転手にささやいて彼も暗い箱の中へ入った。
自動車はただちに、けたたましい音を立てて、人通のない、堤の上を、吾妻橋の方へ、飛ぶ様に消え去った。
お雪は物蔭に立って、くやし相に車のあとを見送った。もうどうすることも出来ない。邸に帰る外はないのだ。だが、彼女は明智に報告すべき事柄を、少くとも二つ丈けは心にとめていた。その一つは怪しい男が夫人を連れ去った自動車の番号――二九三六という数字。もう一つは不思議な男の姿なり声音なり、殊にその特徴のある歩き振りが、彼女のよく知っているある人に酷似していたという事実だった。
余り意外な人物を思い出したので、お雪は変な気がした。頭がどうかしているのではないかと思った。だが、あの一寸びっこを引く歩き方は、どうしてもその人に相違なかった。肩の工合、ステッキのつき方、その他凡ての点が、間違うはずのない著るしい特徴を示していた。彼女はそれらの事柄を明智に電話で報告するために、邸に急いだ。