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いちまいのきっぷ
一枚の切符
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页
ところが足跡というものは、賢明なる黒田氏が調査せられた通り、その朝現場に居合せた者のそれの外は「犯人の足跡」唯一つあるのみである。茲に於て、石を運んだものは「犯人」その人でなければならぬことになる。この変テコな結論に達した私は、如何にして「犯人」が石を運ぶということに可能性を与えるべきかに苦しんだ。そして、其処に如何にも巧妙なトリックの弄せられて居ることを発見して、一驚を吃したのである。
人間を抱いて歩いた足跡と、石を抱いて歩いた足跡、それは熟練なる探偵の眼をくらますに十分な程、似通っているに相違ない。私はこの驚くべきトリックに気附いたのである。即ち博士に殺人の嫌疑を掛けようと望む何者かが、博士の靴を穿いて、夫人のからだの代りに、石塊を抱いて、線路まで足跡をつけたと、斯様に考える外に解釈の下しようがないのである。そこで、この悪むべきトリックの製作者が、例の足跡を残したとするならば、彼の轢死した当人、即ち博士夫人はどうして線路まで行ったか、その足跡が一つ不足することになる。以上の推理の当然にして唯一の帰結として、私は遺憾ながら博士夫人その人が、夫を呪う恐るべき悪魔であったことを、確認せざるを得ないのである。