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いちまいのきっぷ

一枚の切符

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页

青空文庫

あれは斯うした事件になると、興味中心的に、長々と報道するからね、時にとって役に立つというものだ。で、今度は博士邸と轢死の地点との間を往復した足跡を調べて見ると、四種ある。第一は今いった所属不明の靴跡、第二は現場に来ている博士の地下穿きの跡、第三と第四は博士の召使の足跡、これ丈けで、轢死者が線路まで歩いて来た痕跡というものが見当らない。多分それは小形の足袋跣の跡でなければならぬのに、それがどこにも見当らなかったのだ。そこで、轢死者が男の靴を穿いて線路まで来たか。然らざれば、何者かこの靴跡に符合するものが夫人を線路まで抱いて運んで来たかの二つである。勿論前者は問題にならない。まず後の推定が確かだと考えて差支ない、というのは、其靴跡には一つの妙な特徴があったのだ。それはその靴跡の踵の方が非常に深く地面に食い入っている。どの一つをとって見ても同様の特徴がある。これは何か重いものを持って歩いた証拠だ。荷物の重味で踵が余計に食い入ったのだ。と刑事が判断した。この点について、黒田氏は赤新聞で大いに味噌を上げているが、その曰くさ。人間の足跡というものは、色々な事を我々に教えて呉れるものである。