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おもと

万年青

矢田 津世子

「婦人日本」毎日新聞社、1942(昭和17)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,043 字 · 13 页

青空文庫

「ほう、この万年青はよく手入れがとどいている。」

隠居は、そこにしゃがんで、万年青の鉢をゆっくりと眺めにかかった。

福子も並んでしゃがんだ。

「この間ね、植えかえましたのよ。水はけが悪いと思ったら根が少し腐っていましたの。知らないでいたら、大変なことでしたわ。」

「麻布じゃあ、みんな枯らしてしまってね。こういう鉢物は、面倒みてやらないとね。ほったらかしじゃあ万年青が可哀想だよ。」

隠居は、こう忿懣の一端を述べた。麻布の二ばん目の孫嫁のことだった。

この万年青は、隠居が永年丹誠したもので「入舟」という名前までついていた。その親株から子分けしてもらって、孫たちが一鉢ずつ縁起に貰ったものだった。

隠居に手入れの仕方を教わった通り、福子は丹念にその万年青の面倒をみてきた。はじめ、白い星の出かかった葉も、茶汁を筆につけて毎朝洗ってやっているうちに、すっかりとれて、青黒い葉も、この頃は艶光りしてきた。

「万年青の扱いかたで、その人柄がわかるってね。先代が口癖のようにおっしゃったよ。」

隠居は、こう優しい眼遣いで福子を見た。

福子はにこにこして、うれしそうに、ちょっと頸をすくめた。