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みっつのひふん

三つの悲憤

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,748 字 · 18 页

青空文庫

「遠くから来たようだ、少し休息させなさい。」と阮大人は誰にともなくいいました。

その言葉が、阮東の胸にしみました。

けれど、阮東はゆっくり休息するひまがありませんでした。準備されていた盛宴は、阮東を迎えるためのものと変って、早くから初められました。

両親をはじめ一家の人たち二十人ばかり、みな顔を輝かしていました。阮東だけはなんだか沈痛な顔色でした。范志清はにこにこして、自分の家にでも来たように落着きはらっていました。

阮東は、一同から尋ねられても、これまでの四年間のことをあまり、話しませんでした。概略のところ、周家を出てから、知人を頼って、西方遠くの或る都市の匪賊討伐隊に加わったこと、そして時折戦闘もしたが、それよりはおもに、隊の医務をやっていた老人から、本草の学をまなんだこと、そしてその老師が亡くなったので、休暇をもらって帰省したこと、大体そんなことだけでした。

「この范君は、僕以上によく知っています。」と彼は口を噤んで苦笑するのでした。

「ははは、阮君のことなら、阮君自身よりもよく知っていますが。皆さんに御披露するほどよくは知りませんよ。」と范志清は快活に笑うのでした。