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さんにんのそうせいじ
三人の双生児
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年9、10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,806 字 · 87 页
なるほどそこには浮世の苦労を嘗めつくしたというような顔をした小柄の半白の老人が、ただ独りで渋茶を啜っていた。
「ナニ、昔咄を聞きたいというのですかい」
と銀平老人は一向駭きもせずに、
「汚穢しいが、まアとにかくこっちへお上りなすって……」
といって筵の上へ招じた。
妾の不意の訪問も、この佗しい休演中の座長の老人を反って悦ばせたらしい。思いがけなく熱い茶を御馳走になって、この老人の行い澄ました心境を覗いたような気がして物を言いだすのに気持がたいへん楽であった。
「もとこの一座にいたという海盤車娘を御存知?」
「ああ、海盤車娘かネ。海盤車娘もたくさんいるが、どの娘かネ」
「娘と名はついているが、本当は安宅真一という男なんですが……あの肩のところに傷跡の残っている……」
「ああ、真公のことかネ。あいつはついこの間まで居たが、とうとうずらかりやがった。あっしとしては、これんばかりの小さいときから手がけた惜しい玉だったが……貴女さんはなぜ真公のことを訊きなさるのかネ」
そこで妾は、真一が頼ってきて遂に死んだ話をした後、始め真一が幼いときの身の上ばなしをしたが、何かほかに銀平老人が知っていることはないかと訊ねた。