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さんじゅっさい
三十歳
「文学界 第二巻第五号」1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 页
私はまったく無能力者であった。私の小説などは一年にいくつと金にならず、概ね零細な稿料であり、定収にちかいものといえば、都新聞の匿名批評ぐらいのもの、それとて二十円ぐらいのもので、あとは出版社や友人からの借金で、食わなくとも酒はのむというような生活であった。故郷の兄からも補助を仰いでおり、又、竹村書房からは、時々相当まとまった借金もしていた。苦心の借金も、すべてこれを酒に費したと見て間違いない。
矢田津世子はそのころすでにかなり盛名をはせていたが、その作品は私を敬服せしめるものではなかったので、私は矢田津世子との再会によって、むしろ発奮の心を失ってしまったようだ。
矢田津世子に、あなたは天才ですから、威張って、意地を張り通して、くさらずに、やり通さなければいけません。くさって、諦めて、投げてしまうのがいけないのです、と言われるたびに、なにを、つまらぬことを、私はあの人の良妻ぶったツマラナサを冷然と見くびるばかりであった。私はたゞ、むなしかったゞけである。なんとなくバカらしいような落胆を感じた。私は愛人に憐れまれていることの憤りを言うのではない。そのようなとき、彼女の盛名の虚しさを一途に嘲殺していたかも知れない。