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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
そして荷を少し片寄せると、仰天するおまさを尻目にかけて、彼は悠々然と山沢さんへ、引越しの報告に出かけたのである。
ちょうどそのとき、奥さんに薄茶を立てさせていた山沢さんは、彼の簡単至極な報告をきくと、ちょっと驚いたように彼の顔を見た。が、やがて何か苦情を並べたそうな奥さんの口元を見ると、さも快さそうにニコニコしながら、相変らずおうように、
「それもよかろうよ、貴様の勝手にするがいい」
と云って、大きな頭を振ながら、ハハハハと笑った。
今までの家をどうするのかとも聞かなかった旦那様は、ちょうど出ていた東京下りの栗饅頭を三つ、仲よく食えと云って、彼にやった。
こんなことは、山沢さんと彼との間では、何か感情の行違いなどは起そうにも、起らないほど、どうでもいいことではあったが、傍の者の目から見ると、ただハハハハ、それは面白いなだけでは済まない。山沢さんをごまかすとか、手の中にまるめこんでいるとか、大騒ぎをした。
けれども、彼は、それ等の非難が、皆自分と山沢さんの仲のよさを羨ましがっているからだということをちゃんと知っていたから、心配するどころではなかった。