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シャンペン

三鞭酒

宮本 百合子

「婦人倶楽部」1927(昭和2)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,269 字 · 5 页

青空文庫

結婚生活者としては、余り仰山な何かがある。

「――何だろう」

「――そう、夫婦じゃあないわ」

「――そろそろ愉快になって来るかな」

古典的な礼儀からいえば、これは紳士淑女のすべき会話ではない。然し、寛大な読者諸君は、何故都会人がホテルの食堂へわざわざ出かけて、鑵詰のアスパラガスを食べて来たい心持になるか、ただ食べたいばかりではない。同時に食欲以上旺盛な観察欲というものに支配されているのだということを御承知である。

計らずその欲求を刺戟するものに出会ったので、我々は尠からず活気づいた。見るともなく見ていると、彼等は輝く禿と派手な帽子の頂とをつき合わせて睦じく献立を選んだ。一礼して去った給仕は、やがて、しゃれた脚立氷容器に三鞭酒の壜を冷し込んで運んで来た。私は、それを見ると、感じの鋭い小説家ででもありそうに自信をもって、二人の仲間に云った。

「私にはもうちゃんとわかってよ」

「早いな、云って御覧」

「なんなの」

――私は、サラドを口に運びながら、もがもがと呟いた。

「恋人たち」

思わず、嬉しげな好意ある微笑が皆の顔に燦きわたった。ああ、人生はまだまだよいところだ。