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シャンハイされたおとこ

上海された男

牧 逸馬

「新青年」1925(大正14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,665 字 · 18 页

青空文庫

相手の態度から何か忌わしい事件を直感した為吉は黙った儘頷いた。

「太い奴だ!」と男は為吉の手首を掴んだ。驚いた顔が幾つも戸の隙間に並んでいた。

「僕は観音崎署の者だ。一寸同行しろ」

超自然的に為吉は冷静だった。周囲の者が立騒ぐのを却って客観視し乍ら、口許に薄笑いさえ浮べていた。それが彼を極悪人のように見せた。只かまを掛けるつもりで荒っぽく出た刑事は、これで一層自信を強くしたようだった。

「さっさと来い」と彼は自分で興奮して為吉を戸口の方へ引擦ろうとした。

「行きますよ、行きさえしたら宜いんでしょう。なあに直ぐ解るこった」

「早くしろ」

と刑事は為吉を小突こうとした。其の手を払って為吉は叫んだ。

「何をしやがる! Damn You」

刑事の右手が飛んで為吉の頬桁を打った。

「抵抗すると承知せんぞ」

「まあ、まあ、旦那」と顔役の亜弗利加丸が飛んで出た。「本人も柔順しくお供すると言ってるんですから――が、一体何うしたと言うんです」

「太い野郎だ」と刑事は息を切らしていた。

「君等は未だ知らんのか。昨夜坂本新太郎が殺害されたのだ」

一同は愕然と驚いた。最も駭いた――或いはそう見えた――のが為吉であった。