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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

と泣いて頼んだ。

まだ色々なことが耳に入ってきた。

――キヌはそんな身体で、無理をして働いた。手が白く、小さくなったものは、百姓家には邪魔ものでしかなかった。――自分で飯の仕度をして、それを並べてしまうと、隅の方に坐って、ジッとしている。皆がたべてしまって余りがあれば、今度はそれを自分でコソコソたべる。――健は矢張り聞いているのがつらかった。

遅くなって、健が伴のところから帰ってくると、母親が顔色をかえていた。

「キヌちゃ首ばつッたとよ!――来てけれッて。」

健はものも云わずに外へ出た。

外へ出ると、「やったな!」と思った。――月の夜だった。キヌとの色々なことが、チラッと頭をかすめて行った。

キヌは納屋で首を縊っていた。健が行くと、提灯をつけたものが七、八人いた。――父親が探がした時、知らずに打ち当ったと云うので、下がっているキヌの身体が眼につかない程ゆるく揺れていた。提灯の火だけでそれを見ていると、寒気がザアーッと身体を走った。

「ハ、ようやく村の恥さらしものに片がつきました……。」

父親が血の気のない顔で云って歩いていた。

健には、キヌの死んだ事が何故か、キヌという一人の人間だけのこと、それだけのことでなく思われた。