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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

市街地には、S村青年団、S村処女会があって、小学校隣接地に「修養倶楽部」を設け、そこで色々な会合や芝居をやる。――会長は校長。副会長には「在郷軍人分会長」をやっている※荒物屋の主人。巡査。それに岸野農場主が名誉相談役となっていた。――健達の通っている「青年訓練所」も、その「修養倶楽部」で毎晩七時からひらかれていた。

巡査は一日置きに自転車で、「停車場のあるH町」に行ってきた。――おとなしい、小作の人達にも評判のいい若い巡査だった。途中、よく自転車を道端に置き捨てにして、剣をさげたまま、小便をしていた。それが田に働いている小作達に見えた。暇になると、小作の家へやってきて話して行った。――然し一度岸野の小作達が小作料のことで、町長へ嘆願に出掛けたことがあってから、小作人達のところへは、プッつり話しに来ないようになってしまった。そのことでは随分噂が立った。「岸野から金でも貰ったべよ。」と云った。

以前、殊に親しくしていた健の母親はうらんだ。

「随分現金だな。」――然し石田さんに限って、そんな「噂」はある筈がない、と云っていた。

石田巡査はそれから※や吉本管理人と村道を、肩をならべて歩くのが眼につき出した。