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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
」
「母さ云ってやるから!」――由三は大声で泣きながら、通りを走り出した。
途中で片々の下駄を脱いで、手に持った。走りながら、「母さ云ってやるから!」何度もそれを繰りかえした。
母親はすぐ裏の野菜畑の端で、末の子を抱えて小便をさせていた。鶏が畠のウネを越えて、始終キョトキョトしながら餌をあさっている。
「ほら、とッと――なア。とッと、こ、こ、こ、こ、こッてな。――さ、しッこするんだど、可愛いから……」そして「シー、シー、シー。」と云った。
子供は足をふんばって、「あー、あー、あば、ば、ば、ば……あー、あー」と燥ゃいだ。
「よしよし。さ、しッこ、しッこ、な。」
母親はバタバタする両足を抑えた。
その時、身体をびッこに振りながら、片手に下駄を持って、畑道を走ってくる由三が見えた。それが家のかげに見えなくなった時、すぐ、土間で敷居につまずいて、思いッ切り投げ出されたらしく、棚から樽やバケツの落ちる凄い音がした。と、同時にワアッと由三の泣き出すのが聞えた。
「犬餓鬼! 又喧嘩してきたな。……さ、しッこもうええか?」
小指程のちんぽの先きが、露のようにしめっていた。