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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
小作料の更新をするぞ、とおどかして、「坪刈り」にやってくる。然し本当は嘘で、自分の家に何百羽と飼ってある鶏や鵞鳥や七面鳥のエサにするための口実でしかなかった。
この「蛇吉」はH町のある料理屋の白首を妾同様にして通っていた。
「地主さんより上ワ手だ。――地主さんはそう悪くないんだ。吉本よ、あの蛇吉よ!」
小作人のうちではそう云っている。
「あれアダニだよ。」
「口の二つあるダニだ。」――健は自分で赤くなって云った。「一つで地主の血ばとって、もう一つで小作から吸うんだ。」
「ん。」
「地主からなら吸う血があるべども……」
健が云いかけると、みんな云わせないで、「それさ。そこさ。それが大切などこさ。」――伴がガラガラな大声をたてた。
「何かあったら、彼奴ば一番先きにヤルんだ。」
「血書」
「健ちゃ、徴兵よかったな。大した儲けだな。」――近所の小作だった。紙縒を煙管の中に通していた。「石山の信ちゃとられたものな。」
「ん、ん。可哀相なことした。」
「ところが、信ちゃ喜んでるんだとよ。――兵隊さ行ったら、毎日芋と南瓜ばかり食ってなくてもええべし、仕事だってこの百姓仕事より辛い筈もなし、んだら一層のこと行った方がええべッて……。