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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
」
「まさか……。」
「んでもよ、働き手ば抜かれてしまうべ、行けるんだら親子みんなで行きたいッてよ。」
「ドン百姓からばかし兵隊とりやがるんだものな。一番多いそうだ。」
「嘘か本当かな。」――阿部が云った。「こんなこと聞いたど。村長が徴兵検査に行ったもののうちで、採否の分らねえようなものに、こっそり血書ばさせて、村の名誉にしようとしたって……。」
皆一寸だまった。「へえ!」
「んかな……。」
「まさかよ。」
「俺ありそうだって思うんだ。」――阿部は何時もの癖で、自分の手の爪の先きを見ながら、隅の方でゆっくり云った。
「村長一人の考えからでもないんだ。糸をひいてる奴がいるんだ。――農村青年の思想悪化だなんて、彼奴等青くなってるんだから夢中よ。――此頃の北海タイムスや小樽新聞の農村欄ば見れ。ヤレ農村美談だ、ヤレ何々村の節婦だ、孝子だ、ヤレ何青年団の美挙だ、ヤレ何の記念事業だッて、ムキになって農村の太鼓ばたたいているんでねえか。――所が、実際の農村はどうだ。――彼奴等は死物狂いだんだ。何時迄も百姓ばジッとさせて、何時迄も勤勉に仕事ばさせて置くためには、新聞でこい、雑誌でこい、紀元節でこい、徴兵検査でこい、青年訓練所でこい、機動演習でこい、学校でこい、みんなその目当てのためにドンドン使ってしまうんだ。