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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

うとうとと眠ったのだった。

眼を覚すと、長火鉢の向うから、照代がにこにこ笑っていた。丸髷に結っていた。

「どう、似合って。」

僕はただ不思議な気持で見守った。

「いいのよ。今晩はどうせお座敷に出られやしないんだから。それで、気が変っちゃって、こんな風にしてみたの。」

艶やかな鬢をかしげて見せた時、僕は急に左手を打振ってどたんどたんとやった。

「痛い……おう痛い……。」

「しびれ。まあ大袈裟に、美代ちゃんより辛棒がないのね。」

彼女が笑ったので、いやその拍子に気付いたのだが、隣の室から、皆が僕の方を見ていた。見馴れない丸髷の年増と、お座敷着をきた照次と、それから美代子までが、ぽーっと上気した細面の顔を枕につけて、無心の眼付でこちらを見ていた。そして皆一度に、いらっしゃいと挨拶したような風だった。

僕はすっかりてれてしまって、坐り直して眼をこすった。それから火鉢越しに乗り出して声をひそめた。

「誰、あの人。」

「知らないの。おっかさんよ。そら、あたしが元一緒にいた……。」

「ああ……。」

「ね、どっかへいきましょうか。……連れてって頂戴。」

「だって……。」

「いきましょうよ、ね。