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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

僕は不意に可笑しくなった。

「そりゃあ冷いでしょうな。お臍の上に味噌をのっけては。」

「ですからね、」とおっかさんは真顔だった、「熱くなるまで辛棒すれば、じきになおるんですがね。」

「だって、お臍の上に味噌じゃあ……。」

照次がくくと笑い出したのが初りで、照代も僕も一緒に笑い出した。おっかさんだけは真顔を崩さなかった。その光景を、いつのまにかうっとり眼を開いて、美代子がぼんやり眺めていた。

照代はもう箪笥から、着物だの帯だのをやたらに取出していた。

「一寸……届けといたの。」とおっかさんが尋ねた。

「ええ。」

「あたし、留守してるわ。」と美代子が云った。

「ええ。おみやげを持ってきてあげるわ。」

そして、僕は照代とそこを出た。

タクシーの中で、照代はこんなことを云った。

「昨夜夜通しお酒の相手をして、それで冷えたのよ。寝てりゃじきになおるわ。あの通り元気ですもの。先刻だって髪をあげるって起き上ったくらいだから。そして、これで寝ついたら、ねえさん、あたしまた借金がふえるわって、そう云うのよ。可哀そうね。」

「うむ。」

僕は気乗りのしない返事をした。ちらちらと見える街路の灯が美しかった。