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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

いや、誰に向ってでもないんだ。

その家から出たのは十一時頃だった。途中で小間物店に寄って、おみやげを買った。おっかさんや照次や彼女自身のものは、みなしるしばかりの一寸した品だったが、美代子にだけはちゃんとした物を揃えた。彼女は美代子の半襟や鹿子の柄の見立に熱心だった。

彼女が送ってきてくれというのを、僕は頑として断った。

「あなたは、ほんとにやんちゃね。」

「ああ、やんちゃだよ。」

そして僕達は距てのない微笑を交わした。

彼女はおみやげと幾許かの金を持って、タクシーで帰っていった。

吾妻橋のほとりは寒かった。風はなかったが、それでも寒い空気が川の方から流れよってきた。

何という清楚な感じだ。これじゃ駄目だ。もっともっともぐってやれ。

僕は北の方の一廓に向った。殆んど不案内な土地だったけれど、電車でいって後は歩いた。そして、奥の方の小路を、小店を小店をと物色して廻った。

「へえ、旦那、如何で……もう十二時近くですから、半夜のところで、御都合でどうにも……へえ、二両半、他には一切頂きません。」

「そいつあ有難い、今夜は観音堂の縁の下で寝るのかと思った。」

「へへへ、御冗談……。