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ふしょうのあに
不肖の兄
豊島 与志雄
「改造」1925(大正14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页
」
僕はふらふらと梯子段を上っていった。そしてその晩は、北に窓が一つあるきりの何にもない長方形の室で、一人で眠った。
「君はいいからどっかへ行ってこい。ただ、風邪をひかないように布団だけは沢山頼むぜ。」
山出しの女中と云った恰好の女は、布団を余計に一枚持ってきて着せてくれた。
財産がなくなって、自分の腕で稼がなければならなくなっても、俺は力強く働いて見せる、とそんなことを、僕は懐中無一文の気で考えていた。
そして翌朝九時頃までぐっすり寝込んで、それからそこを飛出して、稲毛へ行った。
照代のことで、僕の懐中は実際淋しくなっていた。翌日のことが心細かった。で、午飯をぬきにして、晩に酒を一本だけつけて貰った。
そこの旅館の、丘の松林の中にある離屋を、お前はよく知ってるね。季節外れのこと故、静かすぎるほどだった。その一室で、僕は時々遠く海に眼をやるきりで、死んだ者のようになって半日を過した。風呂にはいって頭まですっかり洗い清めて、善良な女中を相手に淋しい夕食をして、あたりに客もないひっそりした離屋の、朱塗りの餉台の上に両肱をついて、僕はぼんやり昨日からのことを、前々からのことを、思い起していた。