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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

おや、と思って眼を挙げると、鳩が二三羽松の梢に戯れていた。

冷やかではあるがしみじみとした朝日の光だった。丘の裾から遠く霞んでる沖合まで、海は湖水のように凪いで鈍く光っていた。処々に繋ぎとめられてる小舟が、如何にも静かだった。

その景色を胸深く吸いこんで、僕は東京に帰って来た。

お前は驚いたようだったね、僕が余り早く旅から帰って来たので、そして帰るとすぐに、母に金をねだり初めたので……。

母は僕の顔ばかり見ていた。

「旅費が足りなかったんです。」と僕は云った。「だけど、お母さんのところに無けりゃいいですよ。僕が稼ぐから……。なあに働きさいすりゃあ……。それより、お腹が空いちゃった。御飯を食べさして下さい。」

そして、飯を食いながら、母が用で立っていった間に、僕は云った。

「稲毛に連れてってやろうか。」

「だって、」とお前はちっとも乗ってこなかった、「兄さんは行って来たばかりじゃないの。」

「それがね、実は、照代って女と一緒に行くつもりだったんだ。が、どうも……。だからその代りに、お前を連れてってやろう。」

「いやよ、そんな……。」

「だけどお前は、どうせそのうちには、ちっちゃな家庭のちっちゃな花嫁として、浜地と一緒に行くようなことになるんだろう。