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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

落語の間に娘手踊があった。まずい顔に白粉をぬりたくった娘達が、ぱっとした派手な着物を着て、真赤な長襦袢の裾をちらつかせながら、舞台一杯にもつれ合った。彼は喫驚したようにそれを見ていたが、後でこう云った、「あんなのはつまらない。第一下劣でいかんよ。」「どうです、」と僕は母に云った、「それでも彼は……その精神的に……ねえお母さん。」

「そりゃあね、お前さんと違って、浜地さんには、娘手踊なんか面白くないでしょうよ。」

意味がよく母に通じないのが、僕には却って愉快だった。

「なるほどな……お母さんは善良だ。それじゃあ、もっと面白い話がありますぜ。……だが、こう冷えてしまっちゃあ……。」

僕は銚子を熱くして貰いながら、また話し出したものだ。或る時彼は浅草に活動写真を見に行った。金曜日の替り目で、館内はぎっしり込んでいた。その時、彼の隣に、美しく着飾った令嬢風の娘がいた。それが、変に彼の方へ身を寄せてくる。そして写真の代り目になると、プログラムを失くしたから借してくれと云って、それをきっかけに、何かと小声で耳元にちょいちょい話しかけてくる。彼は例の内気さから、初めは用心していたが、次第に引込まれて、一寸手を触れ合うようになった。