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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
のマダムに会うのはますます危いと私は思ったが、しかしいつの間にか私の手は青い内部の灯が映っている硝子張りの扉を押していた。途端にボックスで両側から男の肩に手を掛けていた二人の女が、「いらっしゃい」と起ち上ったが、その顔には見覚えはなく、また内部の容子が「ダイス」とはまるで違っている。あ、間違って入ったのかと、私はあわてて扉の外へ出ると、その隣の赤い灯が映っている硝子扉を押した途端、白地に黒いカルタの模様のついた薩摩上布に銀鼠色の無地の帯を緊め、濡れたような髪の毛を肩まで垂らして、酒にほてった胸をひろげて扇風機に立っていた女が、いらっしゃいとも言わず近眼らしく眼の附根を寄せて、こちらを見ると、一寸頭を下げた。それが「ダイス」のマダムの癖であった。
「今隣へはいりかけたんだよ」
「浮気者! おビール……?」
「周章者と言って貰いたいね。うん、ビールだ。あはは……」
私は軽薄な笑い声を立てながら、コップに注がれたビールを飲もうとすると、マダムは私の手を押えて、その中へブランディを入れ、
「判っとうすな。ブランディどっせ」わざと京都言葉を使った。日頃彼女が「男と寝る前はブランディに限るわ」