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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
の文士らしく若気の至りの放蕩無頼を気取って、再びデンと腰を下し、頬杖ついて聴けば、十銭芸者の話はいかにも夏の夜更けの酒場で頽廃の唇から聴く話であった。
もう十年にもなるだろうか、チェリーという煙草が十銭で買えた頃、テンセン(十銭)という言葉が流行して、十銭寿司、十銭ランチ、十銭マーケット、十銭博奕、十銭漫才、活動小屋も割引時間は十銭で、ニュース館も十銭均一、十銭で買え、十銭で食べ十銭で見られるものなら猫も杓子も飛びついたことがある。十銭芸者もまたその頃出現したものだが、しかしこの方は他の十銭何々のように全国を風靡した流行の産物ではない。十銭芸者――彼女はわずかに大阪の今宮の片隅にだけその存在を知られたはかない流行外れの職業婦人である。今宮は貧民の街であり、ルンペンの巣窟である。彼女はそれらのルンペン相手に稼ぐけちくさい売笑婦に過ぎない。ルンペンにもまたそれ相応の饗宴がある。ガード下の空地に茣蓙を敷き、ゴミ箱から漁って来た残飯を肴に泡盛や焼酎を飲んでさわぐのだが、たまたま懐の景気が良い時には、彼等は二銭か三銭の端た金を出し合って、十銭芸者を呼ぶのである。