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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

茶の間へ上って、電気焜炉のスイッチを入れると、横堀は思わずにじり寄って、垢だらけの手をぶるぶるさせながら焜炉にしがみついた。

「待てよ、今お茶を淹れてやるから」

家人は奥の間で寝ていた。横堀は蝨をわかせていそうだし、起せば家人が嫌がる前に横堀が恐縮するだろう。見栄坊の男だった。だからわざと起さず、紅茶を淹れ、今日搗いて来たばかしの正月の餅を、水屋から出して焜炉の上に乗せ乍ら、

「どうしてた。大阪駅で寝ていたのか。浮浪者の中にはいっていたのか」とはじめて訊くと、案の定へえとうなだれた。

「顔どうしたんだ」

「出入をやりましてん」左の眼を押えて、ふと凄く口を歪めて笑った。大きく笑うと痛いのであろう。

「出入って、博徒の仲間にはいったのか、女出入か、縄張りか」

それならまだしも浮浪者より気が利いていると思ったが、

「闇屋の天婦羅屋イはいって食べたら、金が足らんちゅうて、袋叩きに会いましてん。なんし、向うは十人位で……」

「ふーん。ひどいことをしやがるな。――おい、餅が焼けた。食べろ」

「へえ。おおけに」

熱い餅を掌の上へ転がしながら、横堀は破れたズボンの上へポロポロ涙を落した。