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ちゅうじょうせいいちろうの「かしんしょう」まえがきおよびちゅう

中条精一郎の「家信抄」まえがきおよび註

宮本 百合子

「中條精一郎」国民美術協会、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,886 字 · 16 页

青空文庫

その下で、雁皮紙を横綴にしたものへ、真書き筆で、こまごまと父への手紙をかく。雁皮紙は何枚も厚く重ねてこよりでとじられた。六歳である私は、そのデスクにやっと顎をのせるほどの背たけに成長している。母は、おかっぱの私の右手に筆を持たせ、我手をもち添えオトウサマ、ハヤクカエッテチョウダイ、ユリコと書かせるのであった。或夏の夜特別な燈火の下で母と子とがそうやっていたら、突然、桑田さんの方で泥棒! 泥棒! と叫ぶ声がして、バリバリ竹垣を踏破る音が起った。母は、さっと廻転椅子を立ち上るなり、物をも云わず庭に向ってまだ開け放されていた椽側の雨戸をしめた。宵の八時頃であったろうか。

書簡(二四)

註。キャップ、アンド、ガウンの大学生が街燈のガス燈によじのぼって灯屋をあけ煙草をすいつけようとしている。そこへ来かかったのは、太った体にガウンをゆさゆさと着、胸に白ネクタイを下げた学生監並にシルクハットにフロック、コオトのブルドック二人である。漫画の題はTRAPPED、大学スケッチ第八。

書簡(二五)

註。夜の歩道。一人の学生が巡査の帽子を失敬して一目散に走り出した。