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ちゅうじょうせいいちろうの「かしんしょう」まえがきおよびちゅう

中条精一郎の「家信抄」まえがきおよび註

宮本 百合子

「中條精一郎」国民美術協会、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,886 字 · 16 页

青空文庫

父は、ものを書くのが特に好きというのではなかったようですが、一般にまめであった性質から、結局はなかなかの筆まめであるという結果になって居たと思います。

一生の間には、事務的な用向ではあるが夥しい度数の旅行をして居りますから、その都度書いてよこした寸簡類がもし今日迄保存されていたら、恐らく大した数にのぼって居たことでしょう。

どういうわけか、父が家族に宛てて書いた手紙類は実に小部分しかのこって居ません。日頃あんまり活々と生活していたし、最近の十数年は、手紙類も用向だけを、(一)(二)という風に箇条書にしてよこしたのが多かったため、音信の実際上の役割がすむと、そのまま忘られ、そして捨てられて行ったのかもしれません。或は又、父自身が帰って来て、その辺につみ重ねてある不用の来信を整理するとき、例の調子で自分から破って淘汰の仲間入りをさせてしまったこともあったでしょう。

今日、私共にとって纏った記念としてのこっているのは、明治三十七年一月から明治四十年頃まで父がイギリスに行っていた時代のエハガキ通信です。「ロンドン百景」「藻塩草」「浮世模様」などと題をつけて、殆ど三日にあげず種々雑多なエハガキを母葭江にあて、娘百合子にあて、当時二人の幼い息子であった国男、道男(亡)にあてて書いて居ます。