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くがつのあるひ

九月の或る日

宮本 百合子

「時事新報」1926(大正15)年9月21、22、25、26日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,130 字 · 11 页

青空文庫

「いいえ、でも行く前に一遍来たいと思ったんです」

堤を行くとき、

「言問いでこの頃洋食をやっているんですってね」

と網野さんが云った。

荒れの後だし、秋が浅すぎるので百花園も大したことはなかった。萩もまだ盛りとゆかず、僅に雁来紅、百日紅、はちすの花などが秋の色をあつめている。然し、人気なく木立に蝉の声が頻りな中に、お成座敷の古い茅屋根の軒下に繁る秋草などを眺めると、或る落付きがある。私共は座敷にある俳句を読んだりした。

「どうです? 一句――」

呑気に俳句の話が弾んだ。

「百日紅というのだけは浮んだんですけどね、下の句でなくちゃね」

網野さんが一寸本気になりかけたので皆笑いだした。すると、それにつづき、

「この間の皮と身と、はどうです、あれは傑作だったな」

と、Yがはあはあ笑い出した。網野さんは忘れたと見え、

「え?」

と云ったが、忽ち、

「ああ」

と自分も笑い出した。

三

一日に泊った翌日帰りしなになって、健康の話が出た。

「指で抓んで見て、皮と身が離れるのが分るようじゃいけないんだそうですね」

「そりゃそうでしょう」

「こうして見て――」

網野さんは軽く拇指と人さし指の先で自分の腕をつまんだ。