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くだん

九段

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页

青空文庫

また、よろめいていずこよりか戻ってくる。私たちが彼に話しかけても、その声が彼の耳にとどくことはメッタになかった。

平山中尉の疑い深い招請に応じたおかげで、悩める人間がどのような発作を起すかということをツブサに見学することができたのである。この時以来、上京のたびにここへ宿泊するようになった。

酔っぱらっていた私は初対面のオカミサンを二十六七かときいて女中に笑われてしまった。彼女には二十すぎた子供がいるのである。

オカミサンは十九になった息子に、

「あなたはもう大人だから親の世話になってはいけません。自分の力で工夫して食べて行きなさい」

と、なにがしかの資本金を与えた。見たところはただワガママなお嬢様育ちという愛くるしいオカミサンに見えるのだが、キゼンたる魂と、烈々火のような独立精神の権化なのである。息子は養鶏をやったが思わしくなかったので、ブローカーに転業して母親の旅館へせッせと物資を売りこんだ。ところが母親たるオカミサンが値切るだけ値切るので、全然商売にならないのである。息子は怖れをなして独立の商業を断念した。母親に売りこんでもモウケがないのだから、よその主婦が相手では売るだけ損になるだろうと世の怖しさを知ったのである。