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ちちをさす
乳を刺す
邦枝 完二
黒門町伝七捕物帳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,474 字 · 35 页
「ようござんす。きっと何か、土産を掴んでめえりやす」
「おいらはこれから、一軒寄って黒門町へ帰ってる。おめえの方の様子を知ってからでねえと、仕事の順序が立たねえから、ちっとも速く頼むぜ」
「おっと合点。親分も、お気をつけて行っておくんなせえ」
土けむりをあげて、駈け出した竹造を見送ると、伝七はそのまま表通りへ曲がって、古びた小さい屋敷の門を潜った。
「御免なすって。……お城勤めをなすってらっしやる、袖ノ井さんのお宅は、こちらでござんしょうか」
「はい、はい。誰方でございます」
たるんだ声で答えながら、足許も覚束なく出て来たのは、茶の単衣に、山の出た黒繻子の帯をしめた、召使いらしい老婆であった。
「わたしは、お奉行所の、御用を承ってる者でござんすが、袖ノ井さんに、ちょいとお目にかかりたいことがござんして、お伺い申しました」
「あの、どのような御用で?」
「伊吹屋さんの娘さんの、お由利さんのことにつきまして、お伺い申しましたが……」
「少々お待ち下さいまし」
伝七は、向こうの土間の天井に吊るしてある用心籠など眺めながら黙って待った。
と、間もなく老婆は引き返して来た。