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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

複雑ないろいろの感情や思想をこまかく表現する習慣をもっていないで、いいあらそって苦しまぎれになると、泰造は、食わしているをもち出す。そういう父と母とを、伸子はゆうべどんなこころもちで眺めていたろう。煖炉棚の上にギリシャの壺が飾られて居り、母の指にはダイアモンドがきらめいている。それらの光景の中ではかれる、食わしてやっているという言葉は、伸子を刺した。趣味とか品位とかいうものの不確かさ、女の生活というもののむきだされた根の無力さをおそろしく感じさせられたのであった。

保もつや子も学校へゆき、和一郎は相変らず留守のひっそりとしたおそい朝食をすました。伸子は、何となし母の機嫌をつくろう気になれず、そろそろ、かえり仕度をはじめた。

「おや、もうかえるのかい?」

ひどく不意うちのような表情になって多計代がきいた。伸子はそのとき立って、煖炉前のテーブルにおいた手まわりのものを集めようとしていた。

「そんなにいそぐのかい?」

下から見上げる多計代の視線に、伸子は、袂のさきをつかまえられたような感じがした。

「何か用?」

「――用ってわけでもないけれど……」

多計代は、いまのうちにきめることがあるという風な、いくらか心の内でまごついた調子で、