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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

素子も伸子も知った名前でなかった。

「なんだろう」

とよが、気味わるそうなひそひそ声で告げた。

「三人づれの方でございます――ぼうぼう髪をのばして……何だか人相のよくない方なんですけれど……」

素子が、少しおびえた心持を、おこったような顔の上にあらわして、

「なんだい!」

といった。伸子には、いくらか思い当るところがあった。その時分、アナ・ボルということがいわれていて、黒といえばボルの赤に対してアナーキストのシムボルであることは知っていた。そういうグループの人々が、丸の内辺の会社や有名な人々のところへ、寄附金を要求してゆくことが流行していることも知っていた。近年新しく小説をかき出している若い婦人作家がアナーキスト仲間の生活を描いている作品で、そういうことをよんだ覚えがあった。

「わたし出てみる」

伸子が玄関へ出て行ってみると、たたきのところにとよのいったとおり三人の若い男たちが突立っていた。どのひとの髪もぼうぼうとのびっぱなしで、じじむさいのをてらいの一つにしている高校生のようにきたなかった。どのひとものどのところで丸くエリの立った茶色だの黒だののルバーシカを着て、よごれ古びたズボンに下駄や靴やまちまちの足もとである。