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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「外で、キャッチボールでもしたら?……もうまぶしくないわよ」

そういう遊戯ならば保も仲間になった。伸子は小枝の方を見て、

「お気に入った樹があったら、のぼってもいいのよ」

と笑った。小枝は樹のぼりがすきで、うまいという評判なのだった。小枝は、時計をみたり、和一郎の方をそれとなく見たりしていたが、

「わたし、そろそろおいとまするわ」

と、立ちあがった。小声で和一郎に何かいっていて、和一郎も、一緒に出かける様子だった。

「僕も、そこまでゆきますから……」

松浦が追っかけるようにして、いそいで靴をはいている背中越しに、伸子は、

「和一郎さん、おそくならないうちに帰っていらっしゃいよ」

といった。

「わたし、夕飯すぎまでしかいないから」

「ああ」

「お留守のうちだけは、ね」

「姉さん、大丈夫だよ。心配しなくても」

必ず帰るという意味なのか、うちの方は大丈夫だというのか、どっちを心配しないでいいのかわからないようにいって三人は出て行った。すらりと背の高い、黒い絹靴下を襞の多い短いスカートの下から見せている小枝を真中にはさんで、制服の和一郎と松浦とが石じきを行く。その後姿が、伸子の駒沢の家の玄関へ来た三人の青年たちを思いおこさせた。