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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「奥様はおいでですよ――お客様のようですが……」

「どなた?」

「さア……越智さんだと思いますが――」

駒沢の奥からここまで来たことが一層つまらなく思われた。ハトロンに包んだ花を下げたまま、伸子はしばらくそこに立って江田が小型ビインの手入れをするのを見ていた。しばらくすると、江田が、

「伸子さま、ともかくお上りんなったらいかがです、そのうちにはお客さまもすむでしょうから」

といった。

「和一郎さんたちはいるのかしら」

「保さんがおいでです」

伸子は、まわり道までして買って来たバラの花を飾る場所を失った心持で内玄関から上った。左手のドアがきっちりしまっている。そこは客室であった。いつもは華やかなよく響く調子で客と応待する母の声が、きょうはひとつも外へ洩れて来ない。不自然な気分で、伸子は廊下一つへだてた食堂の一方だけあいているドアから入った。

寂びた赤うるしで秋の柿の実を、鉄やいぶした錫で面白く朽ち葉をあらわした火鉢に鉄瓶がかかっていた。炭がきれいにいかったまま白くたっている。部屋の気配は、ここにもう長い間坐っているひとがなかったことを感じさせた。

女中が出て来て、